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2018/07/01

「日経ビジネスオンライン」掲載第3回 「グローバル企業トップのファッション戦略」

「日経ビジネスオンライン」掲載第3回 「グローバル企業トップのファッション戦略」

「日経ビジネスオンライン」第3弾がこちらです。

ご依頼いただいた3回シリーズの最終回になります。

テーマは「グローバル企業トップのファッション戦略」。

いまや大きく2つのタイプに分けられるようです。こちらも独自の切り口で書かせていただきました。

 

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「グローバル企業トップのファッション戦略」

 

国内外エグゼクティブの服装を読み解く

 

吉村 ひかる

 

各国⾸脳のファッション戦略について分析した1回目、2回目に続き、最終回はグローバル企業のCEOのファッション戦略について、企業トップ、政治家の顧客を抱える国際イメージコンサルタントの吉村ひかるさんが解説します。

 

企業トップの印象は、企業の印象に直結します。発⾔や⽴ち居振る舞い、表情とともにファッションも注目され、さえない印象なら企業の将来性に不安感を抱かせ、エネルギッシュな印象を与えられたなら企業の今後について明るいイメージを植え付けることができます。視覚の影響はそれほどに⼤きいのです。

私は数多くの企業トップのファッションコンサルタントを務め、この印象のマネージメント、いわゆる「印象管理」を理解して味⽅につけるか否かが、企業業績にも関わってくることを実感しています。今回はグローバルに活動するトップの服装をチェックしてみました。

最初は、いつも同じように⾒えるファッションに⾝を包んでいるCEOたちです。

フェイスブックのCEOマーク・ザッカーバーグ⽒はグレーのシャツにデニム姿が多く、クローゼットには同じアイテムが何⼗枚も掛けられているそうです。

ザッカーバーグ⽒は、⾃⾝のファッションについてこう述べています。

「私は社会への貢献に関係しない決断はできるだけ下さないようにしています。

実はこれは多くの⼼理学的な理論に基づいていることで、何を⾷べるか、何を着るかなどの⼩さな決断でも、繰り返し⾏っているとエネルギーを消費してしまうから。⽇々の⽣活の⼩さな物事にエネルギーを注いでしまうと、⾃分の仕事をしていないように感じてしまう。最⾼のサービスを提供して、10億⼈以上もの⼈々を繋げることこそ、⾃分のすべきことなのです」

考え⽅のベースにあるのは「決断の数を減らして、重要な案件に集中する」というもので、それが独⾃のファッションに結びついているのかもしれません。

そんなザッカーバーグ⽒ですが、今年4⽉の⽶連邦議会上院司法委員会の公聴会や5⽉の仏エリゼ宮でのハイテク関連会合ではスーツを着こなし、TPOの使い分けを⼼得ている印象でした。

同じような服装の⼈物として、アップルの共同創業者スティーブ・ジョブズ⽒を思い浮かべる⼈も多いと思います。⿊のタートルネックにデニム、そしてスニーカーの3点セットがお決まりのコーディネートでした。アップルの新製品のプレゼンテーションではいつもこの格好だったので、動画をまとめて⾒ているといつの発表だったか、時間の感覚がなくなるほどです。

しかしこのファッション、スーツを着たビジネスマンよりもシャツやデニムを好む層に製品をカジュアルに使⽤して欲しいという思いから、⾃らそういったファッションでステージに⽴つようにしていたとも⾔われています。マーケティングの勝利ですね。顧客を⾒極めているからこその⾒せ⽅でしょう。

タートルネックもイッセイミヤケによる特注デザインもので、同じ品を100着注⽂していたと⾔われています。デニムはリーバイス、スニーカーはニューバランスと⼀⾒ベーシックですが、イクオリティーな服装で揃えていたそうです。ワンコ―ディネートの中には、様々なメッセージが込められていたのです。そんな彼は、本来はスーツ好きだったらしく、銀⾏などに出向くときには⾼級スーツで有名なイタリアンブランド「ブリオーニ」のスーツを着ていたという説もあります。

このように、スティーブ・ジョブズ⽒もマーク・ザッカーバーグ⽒も、ファションそのものがブランディングになっています。⾔い⽅を変えれば、いつもの同じファッションは、彼らにとっては「制服」であるとも⾔えます。

同じIT業界のIBMにも着目してみました。IBMは創業100年を優に超えたIT業界の巨⼈です。そのトップがバージニア・ロメッティCEO、最初のページにマーク・ザッカーバーグ⽒と写っている⻩⾊のスーツの⼥性です。「変⾰を決して⽌めてはならない」と宣⾔し、最先端の⼈⼯知能を備えた「Watson(ワトソン)」の開発などで近年話題ですが、彼⼥はとてもパワフルで聡明です。

セミロングヘアをきっちりとカチューシャで⽌め、⾜元はピンピール。メディアに出る時には常に最新ファッションで登場し、決断⼒を感じさせるようなはっきりとした鮮やかなスーツに⾝を包むことも多い⼥性です。聞きやすく低いトーンの声で、ユーモアを交えながら実に上⼿なプレゼンテーションを繰り広げます。そして、背景にどんな⾊がくるのかで当⽇の服の⾊やデザインを決めているとしか思えないほど、⾊使いが⾒事なのです。背景までも味⽅にしてしまう、⾃分の最⼤限の⾒せ⽅を知っている⼀⼈です。

⽼舗企業をイノベートしていくCEOとしてのプレッシャーは強烈なはずです。37万⼈以上の社員を導き、何億⼈ものコンシューマー達に夢を与えなければならないのですから、トップのイメージは非常に重要なのです。彼⼥はそれを⼗分に意識しているCEOだと⾔えるでしょう。

 

⾼級スーツで落ち着きや信頼感を表現

そしてもう⼀⼈は、アマゾンのトップに⽴つCEOのジェフ・ベゾス⽒。彼に対しても、やはりラフなスタイルが多い印象を持つ⽅が多いでしょう。けれども前述の⼆⼈に⽐べると、ジャケットを着⽤する姿が多く⾒受けられます。ネクタイは締めたり締めなかったりと、TPOに合わせているようです。愛嬌のある笑顔は、ともすると童顔なので幼く⾒られがちですが、仕⽴ての良い⾼級スーツを着⽤することで落ち着きや信頼感を表現している様に⾒受けられました。

このように⼀代でグローバルな企業を築き上げてきたCEOがいる⼀⽅で、⻑い歴史をもつ企業の経営者もいます。前者は⾰新的な⽴ち位置にいることが多いので、独⾃路線のファッションの⽅が印象管理上のメリットがあります。

ここまで海外のCEOを⾒てきましたが、⽇本企業のトップはどうなのでしょうか。

⽇本のグローバル企業と⾔うと、トヨタを思い浮かべる⽅が多いのではないでしょうか。80年以上の歴史を持ち、豊⽥章男社⻑は頻繁にメディアに登場しています。

スーツやネクタイのバリエーションは豊富で、メガネに⾄ってもそうです。奇をてらったスタイルではありませんが、仕⽴ての良いジャストサイズのスーツに⾝を包み、⾚や⻘などのはっきりとしたネクタイの選択が目⽴ちます。それは強い意志や⼤企業を率いる強さを感じさせ、プレゼンテーションなどでもアグレッシブさを強く主張しています。また、その場に応じてレーシングスーツを着こなすような⼀⾯もあります。このあたりの明確なイメージチェンジや、表現の仕⽅が、歴史を持つ企業トップとしての⾒せ⽅なのかもしれません。

 

ソニー平井⽒に特徴的な⾊使い

同じく⽇本を代表するグローバル企業・ソニーの平井⼀夫会⻑のファッションを⾒ていきましょう。海外居住経験をベースにした流暢な英会話は有名で、相⼿を引き込むプレゼンテーションや振る舞いは相当に努⼒された結果と⾔われています。

そして何といっても洗練されたファッションセンスは秀逸です。決して堅過ぎず、隙を与えないけれども柔軟性も感じさせます。ありがちな地味で目⽴たないコーディネートとは無縁で、きれいな⾊目のネクタイやカラーシャツなどを着⽤することも多く、⽇本⼈が避けがちな⾊もさらりと着こなしています。今年初めの社⻑交代発表の時もピンクのネクタイを締めていたのが印象的でした。

これから迎える東京オリンピック・パラリンピックは、世界に⾃社ブランドをアピールする絶好のチャンスです。企業トップは印象管理を味⽅につけて、的確なファッションで各社の強みを表現していただきたいものです。

2018/06/26

「日経ビジネスオンライン」掲載第1回 「トランプ大統領のネクタイに見る印象管理戦略」

「日経ビジネスオンライン」掲載第1回 「トランプ大統領のネクタイに見る印象管理戦略」

「日経ビジネスオンライン」に「トランプ大統領のネクタイに見る印象管理戦略」の記事を掲載していただきました。

 先日の米朝首脳会談を受けての解説です。

 独自の切り口ですが、楽しんで読んでいただけましたら幸いです。

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「トランプ大統領のネクタイに見る印象戦略」

 

首脳のファッションとしては100点満点?

 

トップの服装戦略で大事なのは「印象管理」という視点です。

 

今月は大きな首脳会談が相次いで開催されました。世界のリーダーはファッションをどうブランド戦略に取り入れているのでしょうか。企業トップ、政治家の顧客を抱える国際イメージコンサルタントの吉村ひかるさんが解説します。

 

 今月はカナダで日米欧主要7カ国(G7)首脳会議が、シンガポールで米朝首脳会談が開催され、それぞれ大きな関心を集めました。国を代表して会談に臨むトップには、一瞬の油断も許されません。服装にも細心の注意を払います。自国の意志や立場を伝えたり、相手への敬意を表したりすることに多大な影響を与えるからです。

 

 トップの服装戦略で大事なのは「印象管理」という視点です。聞きなれない言葉だとは思いますが、自分の好みやトレンドではなく、「人にどう見られたいか」に軸を置いて「印象」を「管理」することを指します。

 

 読者の皆さんにはこの「印象管理」を念頭に置いていただき、まずはトランプ大統領のファッションから見ていきましょう。

 

 大胆な発言とともにスーツの独自の着こなしは常に注目の的で、大統領就任時にはファッションの有識者から批判とも取れる声が噴出しました。特に話題になったのが、ネクタイと前ボタン(第一ボタン)の2点です。通常ネクタイは、身に着けたときにときに大剣(幅が太いほうのネクタイの先)がベルトにかかる位の長さが適切とされます。また正統的なスーツの着こなしは、前ボタンを締めるのが一般的です。

 

 ところがトランプ大統領はどうでしょうか。ネクタイはベルトの位置を悠々と超えて、前のボタンは一切締められることはありません。「アメリカを代表する大統領がこのようなルーズなことで許されるのか」と国内でも物議を醸しています。前任のオバマ元大統領が、実に美しい着こなしだっただけに、その差には戸惑う声が多いのも理解できます。

 

 ただ、アメリカ大統領に就任するほどの人物で、周囲にファッションと縁が深い人物が多いなかで、彼が正しい着こなしを知らないとは到底思えません。若い頃の写真を見ると意外なことに、実に美しいスーツの着こなしをしているのです。側近や親族も同様ですので、意識して今のスタイルを取る戦略ではないかと見ています。

 

 そのような視点で改めてトランプ大統領の服装をチェックすると、ソリッドタイ(無地のネクタイ)を中心に最近ではレジメンタルタイ(ストライプのネクタイ)も多く取り入れていますが、色は「赤」「青」の2色を頻用しています。いずれもインパクトの強い色味を「目に飛び込ませる」戦略を取っているようです。

 

 私は講演やコンサルティングなどで「トランプレッド」「トランプブルー」という言葉を使いますが、驚くべきことに誰もが同じ色味を思い浮かべるのです。特に「トランプレッド」の浸透度は高く、小中学生に「トランプ大統領のネクタイは何色?」と聞けば「赤!」と即座に返答が返って来ますから、印象付けは成功していると言えます。いわゆる「パーソナルカラー」を自分のものとしています。

 

 では、スーツはどうでしょうか。

 

 190cmとも言われる長身を包むスーツですが、前のボタンを締めていないので実はジャストサイズなのか、そうでないのかは判断しかねます。少々サイズにゆとりがあるのかもしれませんが、かなりハイクオリティな生地を使っているように見えます。動きに合わせて大きな身体を包むスーツの生地がしなやかに動き、ドレープ感、落ち感を伝えています。おそらくはスーパー180~200(原毛の太さを示す。スーツに艶や色の深みを生んでいる)程の高級生地を使っていると推察します。

 

 普段からイタリアンブランド「ブリオーニ」のスーツを好んで着用しているようですが、スティーブ・ジョブス氏もこのブランドのスーツをこよなく愛し、1着100万円前後のものが多いことが知られています。

 

 超高級スーツに身を包み、鮮やかな色のネクタイを締め、独自の着こなしで自身を演出しているのです。外見で存在感を発揮し、発言やパフォーマンスに注目せざるを得なくさせる演出は秀逸ともいえるでしょう。

 

 史上初となった米朝首脳会談では、シンガポールに入国した際のネクタイはトランプブルーでしたが、会談当日はトランプレッドでした。

 

 ここで、色の持つ心理効果を説明しましょう。「青」は、冷静、明晰、判断力などの効果があり、いわゆる鎮静作用があります。頭痛薬のパッケージに青が多用されるのにはそのような効果があるからです。

 

 一方、「赤」は、情熱、アクティブ、エネルギーなどの心理効果があり、ここ一番のときには服装のなかに赤を取り入れる人が多いのです。自分を鼓舞したり、周りから情熱的な人と受け止めてもらいやすくなります。世界中の注目を集めた米朝首脳会談で、「青」と「赤」を使い分けたトランプ大統領の意図もその辺りにあるはずです。

 

 では、相次いでトランプ大統領の会談相手となったアジア勢の首脳陣はどうでしょうか。

 

 ここで、前提としてお伝えしておきたいのが、各国の文化の違いです。洋装文化の欧米と、着物文化が長かった日本、そして人民服が長かった中国、韓国、北朝鮮では、着こなしの感性は当然ながら違ってきます。「服装で自分を表現する」という考え方が全く異なるのです。そんなバックグラウンドを考えると、各国、首脳陣たちを横並びで対比するのは実に難しいのです。

 

 とは言っても、やはり気になりますよね。まずは北朝鮮の金正恩党委員長は、当然のようにいつもの人民服で登場。若干サイズが大き目な点が気になりますが、生地は写真で見る限り、ハイクオリティのようです。おそらくは「階級」によって生地が異なり、最高級品を使っているはずです。デザインだけに目を奪われてはいけません。余談ですが、金委員長が今年の「新年の辞」発表時にスーツを着用したのはご存知でしょうか。

 

 グレーのスーツとネクタイを着こなし、いつもの人民服姿では感じづらい西欧的なスマート感を感じさせたことで各国の評判も良かったようです。今後、焦点となっている非核化をめぐって各国と交渉が進むなかで、公式な場でのスーツ姿を増やせば、金委員長に対する印象はもちろん、北朝鮮という国に対する印象も変わってくるに違いないと見ています。

 

 そして、今回の米朝首脳会談の立役者が韓国の文在寅大統領です。常に冷静で紳士的な立ち居振る舞いと端正なスーツ姿は、見る人に安心感すら与えます。ところが目を引くような装いは一切しないせいでしょうか、実はファッションの印象はあまり残っていないのです。

 

 よく見ると、やはり上質なスーツにジャストサイズのスーツをきれいに身に着けていて、ネクタイも地味目な色と鮮やかな色をTPO(タイム、プレイス、オケージョン)に応じで使い分けています。ファッションよりも、端正な顔立ちや柔和な表情がより印象を与える人物で、自国でも女性の支持が高いことが特徴です。

 

 次は開催地を提供したシンガポールのリー・シェンロン首相。アジア人にしては身体の割りに顔が小さく、親しみやすい表情をしています。16億円ともいわれる開催費用を自国で負担して「シンガポールで開催してくれて嬉しい」とコメント。海外居住経験もあり、スーツの着こなしもスマートですが、やはり装いで主張することはあまりないようです。グレーのスーツが多いのですが、これがグレーヘアとマッチしていてソフト感が伝わってきます。

 

 本来、大事な場面ではダークスーツを着用することがビジネス界では基本ですが、このダークというのは、ミッドナイトネービー(濃い紺色)やチャコールグレー(濃い灰色)を指します。決して明るいグレーではありません。そして会議のフォーマル度や相手によって合わせた色を着用するとされます。

 

 ところが、最近ではライトグレーを着用するケースも増えており、このリー首相は細身にライトグレーのスーツをスマートに着こなしています。

 

 それぞれのお国柄や文化の上に成り立っているファッションスタイルですが、今回の一連の国際会談では、それぞれの思惑が服装に見え隠れしていました。外交や駆け引きに奔走する政治家たちは、「印象」にも戦略を凝らしていたのです。

 

以上

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